{on the page}房総風物聚

手元にあるのは古そうな雰囲気を帯びた本、

ではなく、版画を収めたもの。

タイトルは房総風物聚。

手の込んだものだと、一目でわかります。

綴じ紐に宿る美しさ。

細部にまでこだわる、作った方のセンスがうかがえます。

切り絵文字で書かれた目次を見ると、

海関連の言葉や植物の文字が並んでいます。

目次は茶色だけど、

タイトルは深く魅力的な青。

御宿海岸の説明文。

フランスのニースにも勝るという言葉が印象的。

僕はニースより勝る、という言葉より、

何よりも嬉しい静かなところである。 

という最後の一文に惹かれました。


説明文の後につづく一枚の版画。

御宿海岸というタイトルのこの一枚には、


砂浜を歩く二人

大きな雲

海まで伸びる山の裾

山には日西墨三国交通発祥記念の碑

優しい水色の空

そして薄青色の海が描かれています。


描かれている面積の割合からして、

砂浜が主役なのかもしれない。

よく見ると、砂浜が海から遠ざかるにつれ盛り上がっているのがわかる。

雲の輪郭には凹凸が。

雲が浮き出しているよう。

御宿海岸の他には、

砂丘というタイトルの版画がありました。

こんな景色、どこにあったのだろうか。

花の版画にも目がとまった。

実は、この版画集の作者は、

植物学者の牧野富太郎さんとも親交のあった、

船崎光治郎さん。

素敵な植物の木版画を残されている方です。

房総御宿に住んでいた頃の版画集を僕は今眺めています。

待宵草。

黄色の花弁が小さな月のよう。

この版画を見て気づきました。

版画をおさめている函の模様、植物だ。

植物だけでなく、

房総の景色を残しているということは、

植物の美しさと同じように房総は美しいんだ。

そう感じる版画集に出会えてよかった。

この版画集は、

今は見ることができない景色にも出会わせてくれました。

海女さんのショートパンツ。

夏の海に反射する光のような模様が、

房総の夏のイメージとリンクした。

選書・写真・文 カマダ

掲載については船崎敏子さんの許諾をいただきました。
ご快諾くださりありがとうございました。